「知ってるつもり」
九州や長野では記録的な集中豪雨で、被害が拡大しているようです。でも、こうして私たちの目や耳に届くニュースは、世の中で起きていることのどれだけの数かと思うと、気が遠くなります。
そうですね、私たちが知っていることなどはたかが知れています。私たちが知らないところでも、多くの方が被害にあわれているのでしょう。このことに思いをいたしながら、心からお見舞いを申し上げたいと思います。
私たち、いえ私が知っていること、知っているつもりになっていること。年齢を積み重ねて、多くのことを経験してきたはずなのに、ふと気づくと、自分のことですら、自分でどれだけのことを知っているのか不安がよぎったりします。
「健康」のことについても同じですネ。「自分の体のことは自分が一番分かっている」とおっしゃる方。本当に大丈夫ですか?
どんなに優れたお医者様でもあなたの体のことは、ホントのところは分かりません。
そう言えば、「健康」っていったい......。「健康を知る」ことって大事なんですね。あらためて気づきました。
今月の話題は「紅花」です。山形県の花でもあります。昔から漢方薬としても珍重されてきました。紅は血の色です。「健康」を考えていくのにうってつけの材料かもしれません。
●夏だから
山形の夏は日本一暑いです。1933年(昭和8年)7月25日午後3時ごろ、山形測候所の温度計が40.8度を記録しました。これが日本最高気温です。いまだに破られていないようです。聞いただけで汗が噴出してきそうですけど。
そんな山形の暑い夜、遠くから笛と太鼓の音が響いてきます。「花笠踊り」のパレードが始まったようです。
踊り手の女性たちが手にしている笠には、「紅花」の造花があしらわれています。紅いたすきに、口紅の色。なんとも妖しく艶やかなパレードでしょう。
山形の暑い夏には「紅」が似合います。
「紅」は「赤」とは同じ色ですと断言してしまうと誤解を生むかもしれませんが、とにかく赤系の色彩は熱のイメージを強めます。つまり、暑い山形の色。なんとなく納得です。
赤はそもそも、日之本の日輪が天にのぼることにより一日がアケル。そのアケルという言葉が「アカ」になったといわれています。
古事記に登場する「天照大神」は天を照らす太陽神でありました。太陽は人に光と希望を与え、植物を育む力となります。赤は生命の源。そう言う意味で、「アカ」は、まさに神威の色、聖なる色といえるのでしょう。
●赤の祭祀 (日と火と人)
人類は太陽の恵みを受け、まず「赤」に大いなる関心を持ちました。さらに、夜の闇の恐怖の中で「火」を発見したのです。これが二度目の「赤」との出会いでした。火は闇の恐怖から人を解放しました。火は食べ物を調理し命を養い、寒さをもしのぐのに役立ちました。火は日とともに人にとっては神であり、チカラの象徴として崇めてきたのです。
そうです。皆さんももうお気づきでしょう。「人」とは「ヒト」と読みます。人の「ヒ」はまさに、日であり火と同じ音霊(おとだま)なのです。ちなみに人の「ト」は、「言」「事」「音」の「ト」と同じ音霊と考えられますね。
さらには、人の体の中を流れる熱い「血」にも「赤」を発見し驚いたのではないでしょうか。このように「日、火、人」という赤い色につながるものの不思議に、畏れかしこみ、「いのち」の有り様そのものを崇めるに至ったのではないでしょうか。だから、人の生まれたての子供を、赤ん坊・赤ちゃんと呼ぶんですね。
こじつけかもしれませんが、日本人の健康志向とかいうブームは、意外に「ヒト」の根源的な地点から発しているのかも知れません。
●紅花の山形路
もともと紅花は、エジプトや中近東辺りが原産地だと言われています。
はるかシルクロードの交易によって中国に伝わり、朝鮮半島を経由して、日本に伝わったのが6世紀頃。仏教の伝来と時期を同じにしていると言う説が有力です。
染料として「藍」などともに、全国で生産が始まったのが戦国時代の終わりごろではないかと言われています。ここ出羽の国で栽培され始めた確かな記録はありませんが、爆発的に生産量が伸び始めたのは江戸時代に入ってからです。
最上川舟運の発達とともに、紅花は米と同様、いやそれ以上の特産品「最上紅花」として、京のお金持ちに愛され高値で取引されていたと言います。今も山形では、紅花で大儲けした商人の家が、旧家としていくつも残されています。
明治に入り、中国から安い紅花が輸入されるようになり、山形産は価格で太刀打ちできずに栽培面積を縮小していきました。
太平洋戦争の末期から戦後の食糧難の時代、畑は自給用食料の生産に追われ、紅花は壊滅。しかし、昭和24年、一人の研究家が種子を探し当て、栽培を再び始め、1970年頃(昭和45年)、大手化粧品会社との契約で復興しましたが、5年後にはこの企業は撤退。その後、再び生産が激減するという経過を辿っています。
丁度その後、1982年(昭和57年)から1997年まで、「紅花の山形路」という観光キャンペーンを行政とJR主導で実施、観光用の栽培が増え、さらに生け花用に品種改良されたものが栽培されるようなって行きました。
1991年(平成3年)アニメ映画「思い出ぽろぽろ」が公開され、再び脚光を浴び、現在の健康ブームで、少しはもてはやされているのかなと言う状況です。
●行く末は…
「行く末は誰が肌ふれん紅の花」 芭蕉(奥の細道)
江戸時代の俳聖 松尾芭蕉が詠んだ名句です。そうですね。江戸時代も今も、紅花の生産は大変な苦労が付きまといます。
紅花はアザミに似ていて葉や花軸のところに鋭いトゲが生えています。花を摘む働き手は、若い娘たちでしたが、その指をトゲに刺されて血で染めることはあっても、紅花で染めた美しい小袖に袖を通すことも、口紅で化粧をすることもありませんでした。
「紅花油」ってなに?
■サフラワー油 (紅花油)
紅花の種子から抽出されるのが「サフラワー油(紅花油)」です。主として圧抽法によって生産されています。主要生産国は、東南アジア諸国(フィリピンで50%生産)です。
では、その種類と成分について解説しますね。
タイプ |
解 説 |
高リノール酸
タイプ |
高リノール酸タイプの脂肪酸組成は、パルミチン酸6〜11%、ステアリン酸1〜3%、オレイン酸12〜26%、リノール酸59〜78%、 リノレン酸0〜2%です。大部分がリノール酸なので乾燥性が高いようです。
また、リノレン酸含有量が少ないため、乾燥被膜が変色しないという長所を持っています。高リノール酸タイプは、早くから食用に用いられてきました。特に、リノール酸の血中コレステロール低下作用が着目され、 動脈硬化症予防の側面から、食用油としての有用性に関心を持たれています。ただ、酸化しやすいという弱点もあります。
その乾燥性という特長を活かして、工業用の塗料、印刷インキ等の需要もあったりします。 |
高オレイン酸
タイプ |
高オレイン酸タイプは、品種改良されたハイオレック種の種子から採取されたもので、脂肪酸組成はパルミチン酸4〜6%、 ステアリン酸2〜3%、オレイン酸70〜80%、リノール酸12〜21%、リノレン酸0〜1%です。
リノール酸に代わってオレイン酸が多いため、酸化しにくく、熱安定性にすぐれています。
|
|
【バランスを考えた脂質の摂取比率】
脂質には、飽和脂肪酸(動物性)と、不飽和脂肪酸(植物性・魚類性)があります。
さらに不飽和脂肪酸には、一価 (オレイン酸) 系と、
多価 (リノール酸・DHA・EPA) 系に分類されます。
食品の種類によって脂質を構成する成分(脂肪酸)の含有量が異なりますので、望ましい摂取バランスは、
飽和脂肪酸: 一価不飽和脂肪酸: 多価不飽和脂肪酸 =1:1,5:1 (オレイン酸)、(リノール酸等)で摂るとよいといわれています。
参考資料: http://www2.odn.ne.jp/shokuzai/Abura_shurui.htm |
●漢方の視点で
・紅花(コウカ)
/別名:紅藍花(こうらんか)・臙脂花(えんしか)キク科の2年草。
ベニバナの管状花弁を乾燥したものを用います。
紅花の性質 紅花は、四気(基本的な性質)は温(身体を温める)、五味は辛、帰経(主に作用する内蔵系)は心と肝に分類されています。
・紅花の効能
紅花は、血行をうながし鬱血を除く漢方薬として用いられてきました。
紅花に含まれる成分(リノール酸など)には血管を拡げ、血圧やコレステロール値を下げる作用があります。狭心症、高血圧、高脂血症、脳血栓、脈管炎などの循環器系統の病気の治療に広く用いられています。
また婦人病特有の血行障害による生理痛や月経の閉止、産後の腹痛などに効果があるといわれます。
■関連記事1【紅花染め】
関連サイト
http://www.wanogakkou.com/life/00100/00100_006_01.html
■関連記事2【紅花酒】
むくみを取り、吐き気や嘔吐などの改善
【材料】 |
紅花 50g、朝鮮人参 50g、当帰 50g、ホワイトリカー25度 1.5・、ウオッカ40度 0.5・、ハチミツ 適量 |
【作り方】(超簡単) |
1.紅花 → ガーゼの袋又は煎じようのテーパックに詰める。
2.果実酒用の広口瓶に紅花・朝鮮人参・当帰をいれ、ホワイトリカー・ウオッカを注ぎ密封。
3.1〜2月後服用可。好みでハチミツなどを加えお試しください。 |
【用法・用量】 |
1日1回、10?50cc服用します。
ただし、妊娠中や出血しやすい人は服用を避けてください。 |
【期待される効果】 |
腎臓と脾臓の働きを助け、体内の水分代謝を活発にして、むくみを取り除く効果が期待できます。
慢性腎炎の治療補助として用いられる他、吐き気や嘔吐などの症状の改善にも役立ちます。 |
■関連記事3 【簡単薬膳「紅花ご飯」】
【材料】 |
紅花3?5g、お米3合、塩小さじ1、スープストック600cc、白ワイン大さじ2、サラダ油小さじ1 |
【作り方】(超簡単) |
1.お米を普通にといで、スープストックと白ワインを入れ、さらに紅花を合わせ、約一時間つけておく。
2.電気釜のスイッチを入れる前に、サラダ油回し入れ炊き上がりを待つ。
3.炊き上がったら充分に蒸らしてからかき混ぜてよそう。淡く黄色に染まったご飯が美味しそうです。
|
▲上へ戻ります